国立長寿医療研究センター（愛知県大府市）が高齢者約一万人に実施した認知機能検査で、認知症の疑いが強いと
判定された人の四割が自動車を運転していた。センターは、認知機能が低下した高齢者の運転能力を再訓練する
プログラムの研究開発を始めた。検査結果は12日から横浜市で開かれる日本老年医学会で発表する。

検査は2011～13年、名古屋市と大府市の65歳以上の約1万人を対象に「今日の日付や曜日」
「今いる場所」など11項目を質問し、30点満点で測定。認知症の疑いが強いとされる
20点以下は292人で、約4割の119人が車を運転していた。

センターの島田裕之・予防老年学研究部長らは、認知機能が下がっても訓練で安全に運転できる「運転寿命」
を延ばせる人もいると考え、再訓練プログラムを試作。計算問題や間違い探しをする認知トレーニング
▽動体視力などを鍛える視覚トレーニング▽運転のシミュレーター講習
▽教習所での実車教習－で構成し一人につき3カ月間行う。

センターは今年4月から新たに、大府市の65歳以上の全高齢者約6000人（要介護認定者を除く）に認知機能検査を実施。
一部の認知機能に低下が見られた200人がプログラムを受けている。今後、教習所などで運転能力が向上したかを検証。
効果が確認できれば17年以降に対象者を数千人に拡大し、実際の事故率も追跡する予定。

島田部長は「運転は多くの情報を選び、行動につなげる多重課題で、脳を活性化させる。
運転できれば活動範囲も広がり、生活の自立度が高まる」と運転の効果も指摘する。

警察庁によると、14年に75歳以上の人が運転中に起こした死亡事故471件のうち、
認知症か認知機能の低下が疑われるケースは181件（３８％）だった。

道交法では、医師に認知症と診断されると免許取り消しか停止になる。75歳以上の人は免許の更新時に
認知機能の検査を受ける。13年では75歳以上で認知症か認知機能低下の疑いがある人は計28％だった。
ただ、「認知症の疑いがある」と判定されても、信号無視や逆走などの違反をしない限り、医師の診断を受ける必要はない。
このため政府は、検査で「疑いがある」と判定された人に、医師の診断を義務付ける改正案を国会に提出している。
精神科医らからは「認知症と交通事故の因果関係は明らかではない」と法改正に慎重な意見もある。
（生活部・山本真嗣）

中日新聞　http://www.chunichi.co.jp/article/front/list/CK2015060702000074.html
シミュレーターで再訓練する高齢者（左）＝愛知県大府市の国立長寿医療研究センターで